ドライバーと四人を乗せた車は、お昼過ぎにカズベギ村に着いた。
カズベギ村ですることと言ったら、後にも先にもトレッキング。
片道1時間ほどかけて山の上の教会までいくのが一般的だ。
写真撮影の時間を考えても往復3時間あれば行けるであろうことから、トビリシから日帰りでくる猛者も多いらしい。
自分はもちろん1泊、いや2泊、なんなら1週間いてもいいくらいの気持ちで来ている。
自分の泊まる宿は村の外れにあったので、このまま車で行ってもらおうと地図を見せると、どうやらロシア3人組は日帰りできているらしく「私たちこれから登るんだけど、一緒どう?」と誘ってくれたので、一応若干の間をとって断った。
と言うのもここに来るまでの間、荷物に潰されながらバナナを食べていただけなのに、とても疲れてしまったのだ。
なので今日は宿で何もせずゆっくりしたい。
幸いもう一人のイスラエル人女性も今日は登らないと断っていたので、4対1で「日本人付き合い悪いなあ」という空気は防げた。
「あとはこの細い道を入ればすぐだから」とドライバーに言われ、車を降りる。
そして山の方へ向かう彼女たちを精一杯の笑顔で見送った。
普段使ってない筋肉を使うと疲れる。
宿に向うとした時、イスラエル人の女性も車を降りていることに気づいた。
「こっちなの?」と自分の宿の方を指差すと、彼女は頷いた。
それから何を話すわけでもなく2人で歩いていたのだが、本当に何を話すわけでもなく2人で歩いていた。
そして、なんと2人の宿が細い道を挟んで向かい合わせだったのだが、なんと2人ともそのことに一切触れず宿の中へ消えた。
こういう時、少しでも気が利いたことが言えればと思う。
部屋に荷物を降ろし一息つくと、何もすることがないことに気づいた。
ついさっきまで何もしないつもりでいたのに、いざ何もしないとなるとそわそわしてくる。
宿に着いた時に出てきた紅茶と洋菓子のおかげで脳に栄養が供給されたのか、気持ち元気になった。
空は快晴。
絶好のトレッキング日和。
先ほど誘いを断ってしまったロシア3人組と出会わないことを祈り、登ってみることにした。
宿の目の前がこんな景色なので、一瞬もう登らなくても良いんじゃないかとも思ったが、まあ登る。
1.5Lのコーラを一本、バッグに入れ宿を出た。
昨日のドミトリーでベッドが隣だったインド人がくれたものだ。
と言っても既に彼が少し飲んでいたので、残りはおよそ1L。
なぜ飲みかけのコーラをくれたのかは謎だったが、上手く断れずに「もっらちゃっていいんですか?」ともらってしまった。
真ん中らへんに小さく見える教会を目指して登る。
途中の道は車が通るたびに砂埃が舞い上がるので、カメラをぶら下げている方は要注意。
途中で分かれ道があり何人かは右に曲がっていた。
が、自分は左に曲がった。
単純に、分かれ道に立った時に視界の左半分に教会があったから。
写真では伝わりにくが、かなりの急坂。
もしこれで自分の他に誰もいなかったら流石に引き返そうと思ったが、幸い一組の夫婦がいたのでそのまま進むことに。
夫婦が休憩している横を軽く会釈しながら通ろうとすると、旦那さんの方がバッグから水を取り出して、自分にくれた。
きっとよほど辛そうな顔をしていたのだろう。
そして自分のあまりの軽装ぶりを見て、頭もバッグも空っぽなんじゃないかと思ったかもしれない。
これをきっかけにこの夫婦と一緒に登ることになった。
2人はカザフスタンから来ているらしく、奥さんの方が英語を話せたので、旦那さんからの質問を通訳してくれた。
旦那さんは旅のことや日本のことなど色々聞いてきたが、「どうして1人なんだ?」と言いう質問には少し戸惑った。
それから休憩する度に水をくれた。
本当に申し訳なるくらいに。
やがて、遠くに5040mのカズベギ山が見えた。
一瞬、もしかしてこの夫婦はあの山を目指しているのでは?と怖くなったが、確認したらちゃんと教会へ向かっているとのこと。
教会が見えた。
到着。
教会からの眺めはまさに絶景。
眼下に広がるカズベキ村がおもちゃのように見える。
後ろにはカズベギ山。
言葉が出ないほど美しい。
心ゆくまで写真を撮り、下山。
来る時とは違うルートで帰ることに。
登りは結構きつかったが、下りはさらにきつい。
必死に踏ん張りながら下りていくが、自分のすっかりすり減ってしまったクロックスでは、気を緩めると途端に滑ってしまう。
動摩擦力が全然働いていない。
危うく何度か股関節を痛めるところだった。
しかし、前にいる欧米人が裸足になっていてるのを見て、「なるほど。その手があったか」とはこれっぽちも思わなかった。
よほど足の裏の皮膚に自信があるんだろうな、とは思った。
なんだかんだで村に戻ったのは、出発してから5時間後。
スローペースで登っていたし上でも結構な時間を使ったから、まあこんなものだろう。
とても疲れたが、大満足のトレッキングとなった。
翌日。
なんとなく撮った写真を見ていてら、山の写真が逆光になってるなと思い、午前中にもう一度登ることにした。
というわけでトレッキング第二弾。
似たような写真が続くので、この先は見なくても全くもって問題ない。
宿を出発。
これが先ほど言った分かれ道。
ここは左に。
同じような写真が続く。
違うのは夫婦がいるかどうか。
カズベギ山が見えてくる。
教会に到着。
午前中は村の方を撮ると逆光になる。
ここまで頑張ってくれたクロックスにも絶景を。
カズベギ山。
うん、満足。
午前中は人が少なかったが、馬がたくさんいた。
下山。
翌日、トビリシに戻り何日かのんびりしていた。
日本人宿に泊まっていたので、共有スペースには何人か日本人がいて旅の話に花を咲かせていたが、自分は隅の方で誰が持ってきたかわからい『世界のザリガニ』という本をずっと読んでいた。
そして、世界の色々なザリガニが写真で紹介されている中、一匹だけ絵で紹介されていた世界最大と言われる『タスマニアオオザリガニ』をいつかこの目で見たいと思いながらウクライナの首都キエフへと飛んだ。