バンコクに着いた夜、特に疲れていたわけではないが、タイマッサージを受けに行った。
疲れを癒すためのマッサージに、興味本意とか暇潰しとかそんな理由で行っていいのか少し疑問だったが、せっかく機会なのでと言う前向きな理由をつけて自分を納得させた。
今はカオサン通り沿いの宿に泊まっている。
カオサン通りとはバックパッカーの聖地と呼ばれていて、わずか300mほどの通りがゲストハウス、露店、屋台などで埋め尽くされている。
もちろんマッサージ屋もたくさんあり、値段も30分150バーツ(450円)と、日本と比べてかなり安い。
この辺で適当に客引きに捕まっても良かったのだが、ネットで調べていたら1時間100バーツ(300円)という店を見つけてしまった。
あまりの安さに少し不安になるレベルだったが、口コミを見ると評判も良いようだったのでこの店に決めた。
トゥクトゥクと地下鉄で30分ほどかけて店に着いた。
ドアの前にはサンダルが無造作に散乱しており、かなり繁盛しているようだ。
中に入ると香水か薬品かよくわからない香りが充満している。
マッサージ屋はこういうものなのかと思ったが、正直長く嗅いでいると気分が悪くなりそうな香りだ。
後でわかったが、香りの正体は「タイガーバーム」という日本では販売中止になっている薬らしい。
この店には全身か足のみのマッサージがあり、よりタイマッサージを体験出来るだろうと思い全身にした。
ほとんど待たずに2階へ案内された。
部屋には50cmほどの間隔で布団が敷かれていて、それぞれの間をカーテンで仕切れるようになっていた。
案内してくれた男性が、1枚の布団を指差すのでその上に座ると、服を投げ渡されカーテンを閉められてしまった。
何も言われていないけど、多分着替えろと言うことなのか。
しかし、まだ説明があるかもしれないので、とりあえず座ったまま待つことにした。
5分ほど経った。
誰も来ないので、さすがにこれは着替えるための時間だと思った。
渡された服を広げると、上着は普通のシャツだったが、ズボンのウエストが異常にでかい。
余裕で2人は入る大きさだ。
それなのに縛るためのゴムも紐も付いていない。
とりあえず穿いてみるが、すぐに落ちてくる。
穿き方がわからず手こずっていると、突然カーテンが開いて若い女性と目が合った。
その瞬間、女性は何か恐ろしいものでも見たような顔をすると同時に、文字にするのは難しい奇声をあげてカーテンを閉めた。
おそらく時間的に着替え終わってると思ったのだろう。
だが、あいにく着替え中だ。
とりあえずズボンは、後ろの弛んだ部分を結ぶことで、一応穿いてる形にはなった。
が、カーテンの向こうでは、何やらざわついている。
「早く開けてみろよ」
「いやよ、着替え中だったもの」
「さすがにもう終わってるよ」
「いやよ」
憶測だか、多分こんな会話をしているように感じた。
とりあえず女性が何かを否定しているのはしっかりと伝わった。
こちらはとっくに着替え終わっているので、いつでもウェルカムなのだが、女性に変なトラウマを植え付けてしまったかもしれない。
今後の仕事に差し支えなければいいが。
カーテンの向こうでは相変わらずざわざわやっている。
なんとなく人も増えている気がする。
そこまで騒ぐことなのか。
こちらから出ていてっても良かったのだか、もし女性に悲鳴でもあげられたらたまらない。
大人しく待っていると、カーテン越しに「Are you ok ?」と言われた。
中年くらいの男の声に聞こえた。
おそらく、若い従業員が困り果ててリーダーを連れてきたのだろう。
その質問をそっくりそのまま返したかったが、とりあえず元気よく「ok !」と返した。
すると予想通り中年の男性が入ってきてマッサージが始まった。
一瞬開いたカーテンの向こうに女性の姿は見えなかった。
気分を悪くして早退したとかでなければいいが。
で、肝心のマッサージはと言うと、ただ一言「痛い」に尽きた。
ふくらはぎを揉まれている時は、揉むと言うよりも「わしづかみ」という表現の方が適切で、冗談抜きに肉が引きちぎれるかと思った。
背中を指圧されてる時は「この男性は指圧したいのか、それとも背中に穴を開けたいのかどっちなんだろ」と疑ってしまうほどだ。
首をわしづかみにされた時は、一瞬本気で命の危機を感じた。
ライオンやトラなどの猛獣は獲物を捕らえる時に、首や喉元に噛みつくと言うが、ちょうどその獲物の気分だった。
なんとなくこの男性のマッサージに先ほどの女性の念がこもっている気がした。
翌日、身体中が筋肉痛になり両足には痣がびっしりと残っていた。
コメント
読み終わるまでに3回くらい声出して笑いましたw
あっ、シモーネさん。こんばんは。
今となっては笑い話ですけど、あの瞬間は痛くて気絶寸前でした笑