しかしそこへは泊まれない。

前回の続き。

地図を見て、これが本当の場所だと確信した。
急いでパソコンをバックにしまい空港を出ると、先ほどタクシーを降りた場所へ急ぎ足で向かった。
しかし、そこに男の姿はなかった。
あたりを探しても、ついさっきまで2時間半も苦楽を共にした男の顔は見つからなかった。

やられてしまった。
しかし、そんなことを考えている場合ではない。
すぐに空港へ戻り、急いでチケットカウンターへ行った。

そして行き先を告げお金を払い、チケットを受け取った。
地図上ではさっきの場所よりも空港に近い気がしたが、料金は少し高かった。
が、これもいちいち考えている場合ではない。

再び空港を出て、タクシー乗り場へ向かった。
そして、ドライバーはいないかとキョロキョロしていると、横から大柄な男が近づいてきてチケットを取り上げた。
さっきとは違い積極的なドライバーだ。

男はチケットを見るとわかったような、わからないような顔をした。
そこで、携帯のマップを見せ「チケットはいいから、この場所へ行ってくれ」と言うと、少しの間画面を見て「わかった」と頷き車に乗り込んだ。

車を走らせて10分ほどは、先ほどと同じ道だった。
やがて大きなT字路にぶつかった。
右は内陸へ、左は海へ繋がっている。

今回は左へ曲がった。
ここが運命の分かれ道だったらしい。

そこからさらに5分ほど走ると海沿いの道に出だ。
正直、海はあまり綺麗とは言えないが、見ているとなぜか落ち着いた。
しばらく何もない道を走ると、遠くに予約サイトに載っていた写真と同じ建物が見えた。
ある程度近づいたところで、ドライバーに「ここで大丈夫」と言い、車を降りた。

時刻は19時半。
ついに探し求めた宿に着いた。
と言うより、初めから正しい場所を知っていれば、拍子抜けするほどあっさり着いていたのだ。

宿は2階建てで、壁全体が黄色く塗られている。
ところどころ色が剥がれているあたり、ずいぶん前に塗り替えたのだろうか。
2階には木製のベランダがあるが、こちらも遠目から色が落ちているのが見えた。
玄関の前には木製のテーブルと椅子があり、くつろぎスペースになっているようだった。
が、椅子は足が折れていて、残りの3本の足でバランスを取っていた。

とりあえず半開き状態の門を通り、扉の横のブザーを鳴らした。
1分くらい待ったが反応がない。
再度ブザーを鳴らし、扉の向こうに耳を澄ませる。
が、やはり反応がない。

なんとなくドアノブに手をかけ回してみると、きしむ音とともにゆっくりと扉が開いた。
恐る恐る中を覗くと、壁にへばりついていた無数のヤモリが一瞬にして四方八方へ逃げだした。
それを見てそっと扉を閉じた。

どうすることもできずその場に立ちすくんでいると、隣の家の前に座っている少年と目があった。
「この宿、誰もいないみたい」みたいなジェスチャーをすると、「それなら宿の裏に回ってみな」のようなジェスチャーがかえってきた。

門の前に置いたバックを気にかけながら裏手に回ると、そこは海の見えるテラスになっていた。
いや、正確には海が見えるはずのテラスだ。
実際はよく分からない草が伸びきっていて、海への視界を遮っていた。
並べられた円卓には無数のヒビが入っていて、床の板も何箇所か剥がれている。
人の気配は微塵も感じられない。

仕方なく表へ戻り途方にくれていると、突然扉が開き中から一人の女性が出てきた。

そして、自分の身なりや後ろの大きなバックを見ると、察したように口を開いた。
「ここはもう閉まったわよ」
そういえば、宿の口コミが2014年を最後にピタリと止まっていたのを思いだした。

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