ハノイから北西に250kmのところに「サパ」という街がある。
サパは1600mの山々に囲まれた小さな街。
夏でも気温は20度前後と過ごしやすく、日本でいう軽井沢のような場所だ。
また、モン族やザオ族などの少数民族や、美しい棚田が見れることでも有名。
自分はこの棚田を何よりも楽しみにしていた。
と言うよりサパに行くために、ベトナムに来たようなものだ。
当初、ハノイに滞在した後はまっすぐサパに向かい、棚田を見ながらのんびりと過ごす予定だった。
しかし、ハノイに着いてすぐに「ムウカンチャイ村」というところにも美しい棚田があるという情報を耳にした。
さらに、ムウカンチャイの棚田はベトナムで一番美しいと言われ、国家遺産にも登録されているらしいのだ。
これは見に行くしかないと思い、急遽ムウカンチャイに行き先を変えた。
ムウカンチャイはイエンバイ省というところにある。
イエンバイ省は、サパのあるラオカイ省の南だ。
ムウカンチャイがイエンバイ省のどこにあるかは、調べてもわからなかった。
ただ、イエンバイ省の位置からすると、ハノイとサパの間のどこかにありそうだ。
これならムウカンチャイ村に行き、そのままサパにも行けるのでは。
と、そんな淡い期待を抱きながら、とりあえず宿の近くの旅行代理店を周り、ムウカンチャイ村の情報を集めることにした。
しかし、予想を外れて情報は全く集まらなかった。
「ムウカンチャイに行きたんですけど」と聞いても
「ムウカンチャイ?どうしてそんなとこに行きたいの?」
「うちでは取り扱ってないよ」
「とてもじゃないけど、遠くて行けない」
と、こんな答えしか返ってこなかった。
とりあえずムウカンチャイの場所だけは確かめようとしたが、人によって言うところが全然違う。
どうやら観光客が行くところではないらしい。
もともと行く予定の場所ではなかったし、諦めてまっすぐサパに向かおう。
宿に戻りロビーで休んでいると、フロントの男性に声をかけられた。
この男性は片言の日本語が話せる。
加えてとてもフレンドリー。
「やあ、明日はどこか行くの?」
「ムウカンチャイへ行きたかったんですけど、バスが無いみたいで」
「ムウカンチャイ?それならここでチケット取ってあげようか?」
「え?ここで取れるんですか?」
「取れるよ。今聞いてみるからちょっと座って待ってて」
そいうと男性は色々なところへ電話をかけた。
そして「明日の7時にムウカンチャイ行きのバスがあったよ。バスターミナルまでは送るから6時半にここに来て」と言った。
なんともあっさりとチケットが取れてしまった。
そんなわけで場所がどこかもわからないが、ベトナムで一番美しいらしいムウカンチャイの棚田を見に行くことになった。
ムウカンチャイ村がどんなところかわからないので、念のため即席のお粥とうどんを買い込んだ。