ハノイからイエンバイ省ムウカンチャイへ向かう。
朝5時起床。
言われた通り、6時半にロビーへ行くが誰もいない。
迎えのタクシーが来たのは7時過ぎ。
バスの出発が7時と言っていたが、大丈夫なのだろうか。
7時半にバスターミナルに着くと、たくさんの大型バスが停まっている。
自分が乗るミニバスはまだ出発していなかった。
一安心。
バスは1時間半遅れて8時半に出発。
車内はほぼ埋まっていたが、ほとんどが地元の人。
他に旅行者はいないようだ。
後ろに座っていた男性が、椅子の間から声をかけてきた。
「へい、ジャパニーズかい?」
「そうです」
「ムウカンチャイへは何しに?」
「旅行です」
「それはナイスな考えだ。今の季節は綺麗な棚田が見れるぞ」
それを聞いてホッとした。
旅行代理店の人は場所すら知らなかったが、さすが地元の人。
走り始めて1時間もすると、さっきまでの喧騒が嘘のようにのどかな田舎の風景が広がっている。
クラクションの音が聞こえないことに驚いた。
静寂というものがこんなにも、心を落ち着かせるものなのかと。
ホーチミンやハノイではクラクションが鳴り響き、その音が止むことはまずなかった。
バスが2時間おきに止まると、その都度ドライバーが大量の段ボールをバスに積んでいた。
村へ運ぶ物資なのだろうか。
12時頃に小さな食堂の前に停まった。
ここは「ギアロ」という街。
どうやらお昼のようだ。
さっき声をかけてきた男性が近づいてきて「中に入って座りなさい。どれを食べてみたい?」と、ガラスケースに並べられたお惣菜を指差した。
肉なのか魚のかよくわからないものが並んでいる。
唯一わかったのはカニだ。
カニのから揚げみたいのが左下にあった。
「ありがとうございます。でもさっき食べたばかりなので、大丈夫です。」
ごめんなさい。
正直怖いです。
今はお粥か自分で袋を開けたもの以外、信じられないんです。
ごめんなさい。
みんなが昼食をとる中、1人バスへ戻ると念のため買っておいたメントスを2袋食べた。
バスは再び走り出すと、どんどんと山の中に入っていった。
いろは坂並みのくねくね道。
酔い止めを飲んでいなければ、おそらくやられていただろう。
やがて大きな看板が見えた。
ベトナム語なので書いてあることはわからないが「ムウカンチャイ」の部分だけは、はっきりとわかった。
推測するに「ようこそ、棚田の街ムウカンチャイへ」とかではないだろうか。
看板を過ぎると辺りに、小さな棚田が見え始めた。
そして、山の斜面には木造の家がポツポツと建っている。
どうやらここがムウカンチャイ村らしい。
乗客たちが次々に降りていった。
とりあえず降りる支度を始めようとしたら、「まだここじゃない」と、隣の男性に手で制された。
自分を含め5人くらいを乗せたバスは、村を抜けてさらに進んでいく。
どこまで行くのかと思っていると、20分くらいして小さな街に着いた。
そして一件の家の前に停まると、「ここだ。着いたぞ」と言われ、バスを降りた。
どうやらこれが今日の宿らしい。
時刻は17時。
約8時間半かけてついにムウカンチャイにたどり着いた。