雲のすみか。

ドゥンと2人、グワーティからシロンへと向かう。

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ドゥンは隣でハンドルを握りながら何かをずっと歌っている。
洋楽のような気もするけど、よくわからない。
あまりにノリノリだから手拍子でもしようかと思ったが、何もしなかった。
ただ、笑いながらうんうんと頷いていたら「何か日本の音楽を聴かせてくれよ」と、スマホを指差した。

どんな音楽が好きかわからないけど、とりあえず夏っぽい癒し系のを流してみた。
「これが日本の曲か。すごく良いな」
気に入ったらしく曲に合わせて指を鳴らしたり首を振ったりしている。

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「なんかセミみたいなのがいるな」って二人で大笑い。

それから色んな話をした。
詳しくは覚えてないけど、自分がインドに来るのが初めてということにとても驚いていた。
「初めてのインドでシロンに行くのか!?」って。

それから、どんな酒が好きか聞かれてウイスキーと答えたら「俺もウイスキーが一番好きなんだ!ちょっと軽く飲んでいかないか?」と言われ、さすがに断った。

よく聞き取れなくて何度も聞き返すし、単語だけ並べた英語で合っているのかも不明だけど、ドゥンは楽しそうに笑いながら話をしてくれた。
優しいな。

やがて有料道路の料金所を通る時に「悪いけどお金払ってくれないか?」と言われた。
確か90円くらいだった気がする。
普通に考えたら可笑しな話だが、別にいいかなと思った。

90円を代わりに払うことによって自分が受けるマイナスより、ドゥンが受けるプラスの方が大きいような気がしたから。

それに言い合うほどの英語力もメンタルもないし、何よりここで揉めると空気が悪くなりそうな気がした。
せっかく楽しく良い雰囲気で話をしていたから、このままもっと色んな話をしたい。

お金を渡すとドゥンは何度もお礼を言った。

綺麗に整備された道路をひたすら走る。
クラクションも全く聞こえずとてもインドとは思えない。

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「ここから先がメーガーラヤ州だ」
道路脇にある標識を指差してドゥンが言った。

サンスクリット語で「雲のすみか」という意味のメーガーラヤ。

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窓を開けるように言われたのでレバーをクルクルと回すと、空港での熱気が嘘のようなひんやりとした涼しい風が車内に入ってきた。

それから何分か走ると空は分厚い雲に覆われてた。

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やがて激しい雨が降ってきた。
ドゥンはこの時を待っていたかのように勢いよくレバーを回すと、窓から手を出して「これが自然のシャワーだ!」と叫んだ。

よく見ると周りの車も窓を全開にし手を出して、思いっきり雨に当たっている。
雨が珍しいのだろうか。
でも雲のすみかというくらいだから、かなり雨が降るのでは。

ドゥンはしばらく気持ちよさそうに雨に当たっていたが、突然窓を閉めると道路脇に一軒だけポツンと建っている店に止めた。

「そういえばお昼は食べたか?」

「まあ。少しだけ」

「そうか。じゃあ軽くお茶でも飲むか」

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中に入ると2,3人のインド人が食事を取っていた。
何を食べていたか分らないけど、カレーではなかった気がする。

ドゥンが店員に向かって何かを注文すると、チャイと団子のようなもを持ってきた
チャイはインドでよく飲まれるミルクティーのこと。

問題はこの団子だ。
大きさ形は団子そのものだが、色が赤や黄色や緑をしている。
それもかなり濃い色の。

良く言えば色彩豊かだが、悪く言えば毒々しい。
ここまで、少しでも不安な食べ物は徹底して避け、その結果一度も腹痛を起こしていなかっただけに、これを食べるかは少し悩んだ。

自分だけだったら絶対に注文しないが、せっかくドゥンが頼んでくれたものだし。
ドゥンは感想を聞きたいらしく、嬉しそうにこっちを見ている。

さすがに毒が盛られてるってことはないと思うけど、腹痛を引き起こすくらいの菌は十分に潜んでいそう。
しかし、まあ覚悟を決めて食べた。

残りシロンまでは1時間半くらい。
仮に当たったとしても症状が出るのは早くても3時間後くらいだから、最悪ホテルで一晩中苦しめば良いかな、と。

そこまで考えるなら食べなきゃ良い話なのだけれど、こういうときどうも断れない。
で、味はというと、美味しい。
でもかなり甘い。

日本にもこういう和菓子があったけど名前が思い出せない。
きんつば、かんづき、ゆべし。
なんだったっけ。

感想を伝えると、ドゥンはニコニコしていた。

店を出るとき財布を出そうとしたら「お金はいいから」とドゥンに制された。

お腹を満たした後、通り道にあった湖に寄ってくれた。

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水際で釣りをしてる人が何人かいた。
どんな魚が釣れるのか気になる。

その後も自分がカメラを構える度に車を止めて、心ゆくまで写真を撮らせてくれる。

が、突然「今はダメだ!カメラしまって!」と言われることもあった。
何かと思ったらすぐ後ろに軍用車がいて、今にも追い抜かそうとしているところだった。
ドゥンはさりげなくシートベルトを締めた。
自分もドゥン以上にさりげなくシートベルトを締めた。

ドゥンはそれを見て後続車から見えない下の方でグーサインを作った。

それから何十分かして若干の緊張感漂う中、無事にシロンに着いた。
そしてその夜、腹痛を起こすことはなかった。

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