のんびりと5日ほど滞在したサランダを後に、ギリシャに移動する。
サランダからギリシャへの行き方は2つ。
1つはバスでギリシャ北部の都市「イオアニナ」へ行く方法。
もう1つはフェリーで「ケルキラ島」へ渡る方法。
初めはケルキラ島へ渡る方を考えていた。
単に島が好きということと、サランダよりもずっと綺麗な海が見れると聞いていたこと。
何よりもバスより船の方が自由なタイミングでトイレに行けるからだ。
しかし、調べてみるとケルキラ島を周るにはレンタカーが必須らしい。
ペーパードライバーの免許しか持っていない自分にとって、いきなり知らない土地で運転するのはさすがに危険かつ周りの迷惑になる。
一応、島内を公共のバスが走っているが、時刻表が正確ではなく観光に利用するにはあまり向かないらしい。
さらに、ただでさえ物価の高いギリシャの中でもケルキラ島はリゾート地。
宿を探しても中心部はどこも軒並み高い。
というわけで、ケルキラ島は諦めバスでイオアニナへ行くことにした。
元々そこまで楽しみにしていたわけでもないので、大きなショックもない。
夕方、チケットカウンターに行き、明日のイオアニナ行きのチケットが欲しいと言う。
すると窓口の女性は、出発は朝5時45分だけど大丈夫と確認してきた。
全然大丈夫じゃない。早すぎる。
その足でフェリーターミナルに行き、明日の13時発ケルキラ島行きのチケットを取った。
島に着いてからのことはもう何も考えない。
とりあえず早朝の移動を避けることが最優先事項。
意気揚々と乗り込むが、まだ動いていないのに3分と経たずに酔った。
バス、鉄道、飛行機と全く酔わないが、なぜか船にはとてつもなく弱い。
なんなら遠目から見てるだけでも酔いそうだ。
急いで下船し、サブバッグに1錠だけ忍ばせておいたアネロン(酔い止め)を取り出す。
アネロンを口に含んだ後に水を飲を口いっぱいまで入れ一気に飲み込む。
が、何かおかしい。
錠剤を飲むとき特有のあの喉を薬が通り抜ける感覚がない。
もしやと思いペットボトルの水に目をやると、アネロンがプカプカと浮かんでいた。
どうやら水を飲んでいるときに、口からペットボトルの方に移動しまったらしい。
ペットボトルは2L入りで、まだ開けたばっかりだ。
なのでアネロンは蓋に近いかなり上に方で浮いている。
これならいけると思い、アネロンごと一気に水を飲もうと試みるが、ペットボトルを傾けた瞬間、すぐに底の方へ移動してしまう。
この動作を何度か繰り返したが、本当に面白い具合にアネロンが移動してしまうのだ。
少しづつ水を捨てながら取り出すことも試したが、絶妙なところで浮かんでいて取れそうで取れない。
自棄になって水平以上に傾ければ、たちまちアネロンはペットボトルの底だ。
面白い。
アネロンなかなかやるじゃん。
なんて思いながら次の手を考えつつ、ペットボトルを眺めていたらあることに気がついた。
ペットボトルを高く持ち上げてアネロンを下から覗き込むように見ると、アネロンの青い部分に太陽の光が差し込み実に美しいのだ。
キラキラと青く輝くそれはまるでサファイアのよう。
と、いつまでもこんなことをしていたら出航してしまうので、奥の手を使う。
近くにあった売店で新しく500mlの水を買い、それを少しずつアネロンの入った水に注いでいく。
アネロンが指で摘めるところまできたら指で摘む。
そして無事に服用。
生まれて初めて見る操舵室。
一度でいいから舵を取ってみたい。
面舵いっぱいしてみたい。
船酔いした時は進行方向に頭を向けて横になると良いと聞いていたので、その姿勢のままずっと時が経つのを待つ。
1時間ほどでケルキラ島に到着。
前述したように中心地の宿は恐ろしく高い。
裏を返せば中心地を外せば、恐ろしくない値段で泊まれるというこどだ。
そこで、島の反対側「パレオカストリッツァ」というエリアに泊まることにした。
「◯◯ッツァ」と聞くと、食べ物だろうがなんだろうがとにかく値段が高い気がしてしまうのは自分だけだろうか。
まあ実際はそんなことはなく、このパレオカストリッツァには中心地よりもはるかにお手頃の宿があった。
そしてもう一つ、パレオカストリッツァに泊まることにしたのには理由がある。
ここのビーチがかつてギリシャの美しいビーチのナンバー3に輝いたからだ。
こういう時、当時のナンバー1のビーチはどこだったのか、そして現在パレオカストリッツァはナンバーいくつのビーチなのか、疑問で疑問で仕方ないが調べるのは止めておいた。
船が到着した港から、島の裏側のパレオカストリッツァにどうやって移動しようかと困っていたが、計ったようなタイミングでバスが来て、しかもパレオカストリッツァに行くというので乗せてもらった。
さすが島の裏側なだけあり、良い意味でとても静かだ。
夜は星々が空に冴え渡り、朝は鳥の鳴き声ととも目を覚ます。
ドアを開けると清涼な風が吹き抜けとても心地良い。
何もせずにしばらくここでのんびりするのも悪くはないかもと思ってしまう。
本当に何もしたくなくて仕方がないが、せっかくの良い日和なのでかつてのナンバー3のビーチを見に行くことにした。
30分ほど歩いてビーチに到着。
観光バスは来ているが、それほどの数ではない。
オフシーズンはこんなものだろうか。
エメラルドグリーンの海がとても美しい。
誰も泳いでいないのが謎。
と、まあこうして極上のビーチを堪能したわけだが、話はここからだ。
宿に戻る途中、人気の少ない道で偶然ホテルの廃墟を見つけてしまった。
この時点ではまだはっきりと廃墟とは言い切れなかったが、どう見ても営業してる雰囲気ではない。
高鳴る鼓動が抑えきれず、恐る恐る入ってみる。
足を進めるたびに天井から落ちてきた欠片を踏む音が、この閉鎖的な空間に響き渡る。
バルコニーを囲う柵は焦げ茶色に錆付き、ところどころへし折れている。
以前は大勢の人がプールで泳いではお酒を飲み、そして美しいイオアニア海を眺めていたに違いない。
廃墟に魅せられる理由の一つは、そこにかつての栄枯盛衰を感じるからではないだろうか。
こうして廃墟の持つ幽玄な魅力に完全に魅せられ、終始目を逸らせずにいたわけだ。