エディンバラからロンドンに戻ってきた。
次の目的地はイギリスのとある島なのだが、これまで行った人がほとんどいなくネットにも情報がなかったので、少し調べる必要があった。
もう少しロンドン市内を観光したいという気持ちもあったので、少し腰を下ろして観光しつつのんびり調べようと思っていたところ、以前アルバニアで出会ったジェームズという男性から「ロンドンに来た時には家に泊まりにおいで」と連絡をもらったので、お世話になることにした。
ジェームズは10年以上前に日本の小学校で英語を教えていたこともあり日本語が上手だ。
アルバニアで一緒に飲んだ時は、自分に合わせて日本語で会話をしてくれていた。
しかし、それ以降メールでのやり取りはもちろん英語。
おそらく文法とかしっちゃかめっちゃかだろうに、初めて英語でメールをして「おー、英語でやり取りしてる自分、かっこいい」と思ってしまう自分、この上なく痛い。
英語でのやり取りの中で、そのニュアンスを読み取るのに苦労した。
日本語なら語尾に顔文字や「笑」「〜」をつけることで、文字の羅列に感情を吹き込んだり状況に合った雰囲気を付け加えれるが、ジェームズからのメールは語尾が全て「.」で終わっていて、なぜか常に怒っているのではと思ってしまった。
まあ、これは英語云々の前に自分のコミュニケーション能力の低さが問題なのは明白だが。
そんなわけで、シモーネさんにメールの解読をお願いしていた(迷惑行為)。
テキストに載ってる英語の長文は「読解」するものだが、英語のメールは「解読」の方がしっくりくる。
英語でメールをやり取りする中で一つ大きな疑問が湧いた。
日本語のメールで使われるいわゆる「笑」に相当するものが英語のメールにはあるのだろうか。
知っている人がいたら教えて欲しいです。
ジェームズからのメールに書かれた通り、バスと鉄道を乗り継いでアパートに辿り着いた。
10階建ての真新しい建物はアパートというよりも高級マンション。
さらにビッグベンやタワーブリッジが徒歩圏内というウルトラグッドロケーション。
おまけに中庭には大きな池に橋がかかっていて、池の中には鯉に餌をあげられるナイスアクティビティ。
中に入るとレセプションがあり、マンションというよりもはやホテル。
スーツが似合いすぎる黒人男性に少々ビビりながら「あの、友人がいるんですけど」と一言。
これじゃただの友達たくさんいますよアピールだったなと、今になって思う。
察してくれたらしく、部屋に電話をかけジェームズを呼んでくれた。
約一ヶ月ぶりの再会。
ジェームズが部屋まで荷物を運んでくれた。
まるでホテルにチェックインしたみたいだ。
思わずチップを払いそうになる。
部屋はおそらく4LDKはあろうかという広さ。
さすがに一人暮らしにしては広すぎではと思っていたら、奥から知らぬ男性が出てきた。
彼はアレックスと言って、どうやらジェームズとこの部屋をシェアしているらしい。
なるほど納得だ。
部屋はそれぞれにあり、キッチンとリビングを共有。
自分のために折りたたみ式の簡易ベッドをリビングに展開していてくれた。
荷物を置いて少し落ち着くと「何か日本食を食べに行こう」と言って近くの寿司屋へ連れて行ってくれた。
久しぶりに食べるお寿司はもちろん最高に美味しかったが、ネタよりもシャリや一緒に付いてきたお味噌汁に感動してしまったのは、長く旅をしていると致し方ないことだと思う。
カウンターの後ろには「八海山」や「上善如水」と言った日本酒が並んでいて、なぜかそれを見て日本の居酒屋が無性に恋しくなってしまった。
ホームシックならぬ居酒屋シックとでも言うのだろうか。
ああ、焼き鳥食べながらハイボールが飲みたい。
お寿司はそこそこに二人でビールばかり飲んでいた。
結局23時の閉店までビールを飲み続けた後、帰り際に「まだ飲み足りないよね」とジェームズが言うので、スーパーでビールを何本か買いアパートに戻った。
リビングではアレックスがくつろいでいたので、3人で飲むことに。
もちろん何を話したか覚えていないが、買ったビールがなくなったところで「まだ飲み足りないよね」とジェームズが言うので、アパートの隣のパブに2人で行くことに。
明日も平日だというのに0時を過ぎても薄暗い店内は大勢の人で溢れかえりとても賑やか。
カウンターに腰掛けジェームズのおすすめのビールを飲む。
ビールを注ぐ店員と気さくに会話するジェームズ。なんてカッコイイのだろう。
絵になる。それはもう絵になる。
映画のワンシーンを見ているよう。
店を後にアパートに戻る途中、「まだ飲み足りないよね」とジェームズが言うので、24時間営業の商店でビールを買い部屋に戻る。
アレックスはもう眠っていた。
翌朝。
「じゅん、二日酔い大丈夫?」とリビングに入ってきたジェームズはスーツに身を包んでいた。
自分と同じく長期で旅をしていたジェームズは現在求職中。
今日は新しい会社の面接があるらしく「これアパートの鍵だから自由に出入りしてね」と小さな鍵をテーブルに置くと、足早にアパートを出て行った。
少ししてアレックスが起きてきた。
昨日、シャワーを浴びずに寝てしまったことを思い出し「シャワーを浴びても良いですか?」と聞くと「もちろん。ジェームズのバスルームはシャワーヘッドが無いから俺のバスルームを使いな」と案内してくれた。
シャワーヘッドの無いシャワー。
それはそれで気になる。
「タオルは持ってるかい?シャンプーはあるかい?」とアレックスはとても親切だ。
あまりの親切心に触れると罪悪感を感じるのはなぜだろう。
極め付けに「何日でも泊まって良いんだからね」。
まずい、その言葉をかけられると何日でも泊まっていたくなる。
次の日から昼間は調べごとをし、夜は夜景を見に行く日々が続いた。
だいたいジェームズは深夜に帰ってくるので、そうするとソファーに腰掛けながらその日のことをお互い話す。
「フットサルをしてきた」「家族と食事をしてきた」「友人と飲んできた」と、バラエティに富んだジェームズの出来事とは対照的に「調べごとをしてた」「パスタを作った」「夜景を見てきた」と、自分の報告は常に登場人物が一人だった。
たまに、ジェームズのおすすめの韓国映画を見ることがあったが、英語字幕なので内容のほとんどが理解できなかった。
それをジェームズが隣で日本語に訳して内容を教えてくれたのが本当に嬉しかった。
そんな生活が気づけば5日。
情報は必要十分に集まった。
いざ次なる目的地、チャンネル諸島・サーク島へ。
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